2007年01月27日 (土)
『6%の違い』
「ねぇ、私らってホントそっくりだよね」
長髪のコが、しみじみとつぶやいた。
「ん、今更どうしたの?」
同じく長髪のコが、左手のペンをクルクル回しながら、首をかしげた。
「当然じゃない? 双子なんだから」
「そりゃ、そうかもしれないけどさ。一卵性ってだけでここまで似るもんなのかな? 見た目だけじゃなくって、好みや性格とか、服のセンスや価値観とかも。進学した学校だって同じだし、スゴく気があって仲良いし」
「でも、そう言う割には、言葉遣いとか違うくない? あなたは、最近のコってカンジの砕けた口調だけどさ」
「そう? ソッチも、かなり砕けてるって思うけど。微妙に、しぐさや雰囲気が違うかもしれないけどさ。私がソッチと同じように振舞ったら、周りは絶対気づかないって」
「まぁ、よくあなたと間違われることあるから、否定はしないけどさ」
同じ顔で、同じ体格、同じ服装のロングヘアのコが2人。
鏡に映ったように、テーブルに向かい合って、同じデザインのティーカップを片手に。もう一方の手には、同じデザインのペンをクルクル回しながら、雑談している。
机の上には、これまた同じ参考書と、デザインのノートが広がっていた。
「でもさ、ヘンなんだよね」
「ヘンって何が?」
「心理テストが流行っててね。相性がわかるってヤツ。こんなに似てるし、双子なんだから、100%が出るって思ってやったのよ。だけど、期待ハズレ。結果は94%だった」
「ふーん、でも、まぁ、仕方ないんじゃない。双子って行っても他人だし。
似てるからって相性がイイって限らないでしょ」
「そうかなぁ~、ソッチが買ってくる本と同じの買っちゃうし、学食の昼ご飯が、10回連続で同じだったこともあるし。同じ人を好きになることもあったじゃない? 数えただけでも、5回ぐらいだったっけ。あれも偶然ってやつ?」
「偶然にしては出来すぎてるってことも多いかもね。実は、私もその心理テストやったことあるからさ。しかも、結果は、同じく94%だったし」
「マジで!? ほら、やっぱ、双子だから同じなんだよ」
「でも、94%が同じってことは、残り6%って何? こんなに似てるのに、違うことって何があると思う?」
「うーん、何だろ……? これといって、思いつくことはないかな。所詮、心理テストだし、微妙に外れるんじゃない? きっと、何かの間違いとか」
「そうかもね、ここまで似てるとね、それが自然な気がする。たかが心理テスト。心理テストって名前の割には心理学的じゃないし」
「そうそう。統計学的なところはあっても、時間要因と環境要因がないから。あくまで、それっぽいってだけだよね、心理テスト」
同じ顔が、あはは、と肩を震わせて、ティーカップを口に運ぶ。
そして、片方の表情が少し硬くなった。
「ところでさ…ちょっと聞いた話なんだけど、良い…?」
「何? いきなり改まって。どうかしたの?」
「えっと…なんて言うかその……。告白されたんだって、同じクラスの平森に。イケメンだから結構狙ってるコ居たけどさ。あっちからコクってきたんだって?」
「誰から聞いたのよ…?」
「誰からって、別に誰ってワケじゃないけどさ。 結構、ウワサだよ? 知らない人のほうが少ないんじゃないかな。2人は、お似合いのカップルだってね」
「そうなの…それはちょっと困るな……」
「困るって何が…? もしかして、私に気を使ってるっていうの? 前に、私がアイツのことイイなって言ってたのを気にしてるとか?」
「いや、別にそんなんじゃないけど…」
「そんなんじゃないってどうなのよ。私は別にアイツのことなんて、今はどうでもいいんだけど。もし、ソッチが気にしてるんだったら、困るからさ」
「それはその…なんていうか。あれね。その…私ね、彼からの告白、断ったから。だから、恋人同士だなんて目で見られると困る……」
「ウソよッ! 私は、見たわ。ソッチと彼が、人気の無い教室で抱き合ってるとこを。アレは何だってのよ? フッたんなら、あんな展開おかしくない?」
「あれは…あっちが無理やり……」
「何が無理やりよ。ソッチも嬉しかったんでしょ? 私と好きなタイプは同じなんだから、イヤなはずがない。どうせ、私に気を使ってるだけでしょ」
「違う、違うの…私は…そんな気は全く――」
「もぅ、言い訳はたくさんよッ!」
激高する長髪のコが、上着のポケットからナイフを取り出した。白光する刃には、唖然とした長髪のコが映る。
「あはは、驚いた? 実は結構、前からね、ガマンの限界なのよね、私。いつも何かある度に、双子だからってソッチと比べられるのは、もぅウンザリ。その度に、ソッチは、私のことバカにしてるって知ってるんだから」
「はぁ…はぁ…そんなことないから…落ち着きなさい」
「そんなことないって? 落ち着けって? そんなの出来るわけないじゃない。ソッチが考えることは、私も同じように分かるんだから。はっ、ダテに94%なんかじゃないってところ? それに、この気持ちを抑えられるわけが無いじゃない。昨日の今日じゃない、ずっと前から想ってた。その荒い息遣い、苦悶に震える表情とかゾクゾクしてたまらない」
「きゃっ!」
激高する長髪が、刃を振るうと、肩を震わす長髪の服が刻まれた。
「どう痛い? 痛いでしょ? だって、血が出てるものね。どう私は本気よ? 私が本気ってことわかってくれた?」
「ダメよ…こんなの…もうやめて…」
「ダメよ…止めれない…やめられるわけがない。他のヤツに、私以外のヤツにヤられるぐらいなら、私がヤる」
「んっ!?」
同じ顔の、同じ瑞々しい赤い膨らみが重なり合う。
片方が逃れようと、もがき、もう一方は、追いかけ、強引に求めた。
「だって、私は、ソッチのことを愛しているから。 誰にも渡さない。平森にも、他の男にも、他の女にも……ソッチは私だけのものだから。これ以上ないぐらい同じで、私を理解できるソッチを絶対、手放さない。私の考えが全部分かるし、私もソッチのことは全部分かる。嬉しいことから厭なことまで何から何まで全部……同じすぎて、ムカツキすぎて、イライラする。
だけど、殺したいほど、憎いんじゃないよ? 愛しているから殺したいんだよ? 私は愛しているよ、殺したいほど。いや、正確には、今から殺すんだけどさ。私以外の誰の手も届かないように、この場で徹底的に、バラバラにしてね」
「はぁ…はぁ…こ、こんなのって…?」
「あはは。そんな顔しないでさ。最期はさ、笑ってよね。私だけのモノになるんだからさ!」
ナイフのコが告げると、同じ顔のコたちの躰が重なった。同じ痩躯が、もつれ合い、一瞬の停滞。
もつれた紐がほどける様に、一方が、すがりつくように床に倒れた。ごぼっ、と口から赤を吹き、床をぬらぬらとした、紅で染めてゆく。
その倒れた痩躯の手には、ナイフが握られていた。
「えっ…?」
「あはは、奇遇ね。ホント、よく似てるわ、私ら。 何が起こったかわからないって顔ね? そりゃ、突然、口から血を吹いて、体の自由が利かなくなったら、驚くよね? どう動ける? 無理でしょ? 結構、強いクスリだから。あぁ、心配しなくても大丈夫。動けなくなるだけだから。血を吹いたのは、ちょっと量が多かったから、粘膜がやられただけよ、きっと」
「一体…どういうこと…?」
「まだ分からない? 私らよく似てるんでしょ。あなた、私を殺したいって思ってるんでしょ? 私のことを好きで、好きでたまらなくて、愛しているから殺したいって」
「ちょっ、まさか…?」
「そうよ? だから、言ったじゃない。彼の告白は断ったって。私が好きな人、いや、私が愛してる人は他にいるもの。まさか、その相手から先に、こんな熱烈な告白されるとはねぇ? びっくりしすぎて、笑いをこらえるのに必死だったわ。私の気持ち、もうわかってるでしょ?」
淡々と話しながら、長髪のコが、ティーカップを優雅に口に運んだ。
「私も愛しているのよ。アンタが私を殺したいほど愛しているのと同じか、それ以上にね。だから、アンタのティーカップに、クスリを入れたの。身動きの取れないイモムシみたいなアンタを愛すためにね」
「ちょっ、こ、こんなのって…おかしくない? 何かのジョーダンよね…?」
「冗談でこんなことをすると思ってるの? 私は本気よ? 本気で愛してる。人を愛すってことは、逆に愛されることも覚悟しないとね? 一方的に押し付けてるだけじゃダメよ。相手の気持ちもしっかり受け入れないと。 良かったじゃない? 私ら、似ているだけじゃなくって、相思相愛だったんだから。今からたっぷり愛してあげる」
「イヤッ…やめて、一体…何する気!」
「何って…? これから私とあなたは、1つになるの。最初は痛いかもしれないけど、すぐに良くなるはずよ。そのためのクスリだからね。少しずつ味わってあげる」
長髪のコは、無邪気な微笑で、床のコからナイフを取り上げた。
「あぁ、そういえば、心理テストの6%の違いってのが、今わかった」
左手でナイフをクルクル回すと、彼女は言った。
「きっと、純愛と鬼畜の違いじゃないかしら」(終)
「ねぇ、私らってホントそっくりだよね」
長髪のコが、しみじみとつぶやいた。
「ん、今更どうしたの?」
同じく長髪のコが、左手のペンをクルクル回しながら、首をかしげた。
「当然じゃない? 双子なんだから」
「そりゃ、そうかもしれないけどさ。一卵性ってだけでここまで似るもんなのかな? 見た目だけじゃなくって、好みや性格とか、服のセンスや価値観とかも。進学した学校だって同じだし、スゴく気があって仲良いし」
「でも、そう言う割には、言葉遣いとか違うくない? あなたは、最近のコってカンジの砕けた口調だけどさ」
「そう? ソッチも、かなり砕けてるって思うけど。微妙に、しぐさや雰囲気が違うかもしれないけどさ。私がソッチと同じように振舞ったら、周りは絶対気づかないって」
「まぁ、よくあなたと間違われることあるから、否定はしないけどさ」
同じ顔で、同じ体格、同じ服装のロングヘアのコが2人。
鏡に映ったように、テーブルに向かい合って、同じデザインのティーカップを片手に。もう一方の手には、同じデザインのペンをクルクル回しながら、雑談している。
机の上には、これまた同じ参考書と、デザインのノートが広がっていた。
「でもさ、ヘンなんだよね」
「ヘンって何が?」
「心理テストが流行っててね。相性がわかるってヤツ。こんなに似てるし、双子なんだから、100%が出るって思ってやったのよ。だけど、期待ハズレ。結果は94%だった」
「ふーん、でも、まぁ、仕方ないんじゃない。双子って行っても他人だし。
似てるからって相性がイイって限らないでしょ」
「そうかなぁ~、ソッチが買ってくる本と同じの買っちゃうし、学食の昼ご飯が、10回連続で同じだったこともあるし。同じ人を好きになることもあったじゃない? 数えただけでも、5回ぐらいだったっけ。あれも偶然ってやつ?」
「偶然にしては出来すぎてるってことも多いかもね。実は、私もその心理テストやったことあるからさ。しかも、結果は、同じく94%だったし」
「マジで!? ほら、やっぱ、双子だから同じなんだよ」
「でも、94%が同じってことは、残り6%って何? こんなに似てるのに、違うことって何があると思う?」
「うーん、何だろ……? これといって、思いつくことはないかな。所詮、心理テストだし、微妙に外れるんじゃない? きっと、何かの間違いとか」
「そうかもね、ここまで似てるとね、それが自然な気がする。たかが心理テスト。心理テストって名前の割には心理学的じゃないし」
「そうそう。統計学的なところはあっても、時間要因と環境要因がないから。あくまで、それっぽいってだけだよね、心理テスト」
同じ顔が、あはは、と肩を震わせて、ティーカップを口に運ぶ。
そして、片方の表情が少し硬くなった。
「ところでさ…ちょっと聞いた話なんだけど、良い…?」
「何? いきなり改まって。どうかしたの?」
「えっと…なんて言うかその……。告白されたんだって、同じクラスの平森に。イケメンだから結構狙ってるコ居たけどさ。あっちからコクってきたんだって?」
「誰から聞いたのよ…?」
「誰からって、別に誰ってワケじゃないけどさ。 結構、ウワサだよ? 知らない人のほうが少ないんじゃないかな。2人は、お似合いのカップルだってね」
「そうなの…それはちょっと困るな……」
「困るって何が…? もしかして、私に気を使ってるっていうの? 前に、私がアイツのことイイなって言ってたのを気にしてるとか?」
「いや、別にそんなんじゃないけど…」
「そんなんじゃないってどうなのよ。私は別にアイツのことなんて、今はどうでもいいんだけど。もし、ソッチが気にしてるんだったら、困るからさ」
「それはその…なんていうか。あれね。その…私ね、彼からの告白、断ったから。だから、恋人同士だなんて目で見られると困る……」
「ウソよッ! 私は、見たわ。ソッチと彼が、人気の無い教室で抱き合ってるとこを。アレは何だってのよ? フッたんなら、あんな展開おかしくない?」
「あれは…あっちが無理やり……」
「何が無理やりよ。ソッチも嬉しかったんでしょ? 私と好きなタイプは同じなんだから、イヤなはずがない。どうせ、私に気を使ってるだけでしょ」
「違う、違うの…私は…そんな気は全く――」
「もぅ、言い訳はたくさんよッ!」
激高する長髪のコが、上着のポケットからナイフを取り出した。白光する刃には、唖然とした長髪のコが映る。
「あはは、驚いた? 実は結構、前からね、ガマンの限界なのよね、私。いつも何かある度に、双子だからってソッチと比べられるのは、もぅウンザリ。その度に、ソッチは、私のことバカにしてるって知ってるんだから」
「はぁ…はぁ…そんなことないから…落ち着きなさい」
「そんなことないって? 落ち着けって? そんなの出来るわけないじゃない。ソッチが考えることは、私も同じように分かるんだから。はっ、ダテに94%なんかじゃないってところ? それに、この気持ちを抑えられるわけが無いじゃない。昨日の今日じゃない、ずっと前から想ってた。その荒い息遣い、苦悶に震える表情とかゾクゾクしてたまらない」
「きゃっ!」
激高する長髪が、刃を振るうと、肩を震わす長髪の服が刻まれた。
「どう痛い? 痛いでしょ? だって、血が出てるものね。どう私は本気よ? 私が本気ってことわかってくれた?」
「ダメよ…こんなの…もうやめて…」
「ダメよ…止めれない…やめられるわけがない。他のヤツに、私以外のヤツにヤられるぐらいなら、私がヤる」
「んっ!?」
同じ顔の、同じ瑞々しい赤い膨らみが重なり合う。
片方が逃れようと、もがき、もう一方は、追いかけ、強引に求めた。
「だって、私は、ソッチのことを愛しているから。 誰にも渡さない。平森にも、他の男にも、他の女にも……ソッチは私だけのものだから。これ以上ないぐらい同じで、私を理解できるソッチを絶対、手放さない。私の考えが全部分かるし、私もソッチのことは全部分かる。嬉しいことから厭なことまで何から何まで全部……同じすぎて、ムカツキすぎて、イライラする。
だけど、殺したいほど、憎いんじゃないよ? 愛しているから殺したいんだよ? 私は愛しているよ、殺したいほど。いや、正確には、今から殺すんだけどさ。私以外の誰の手も届かないように、この場で徹底的に、バラバラにしてね」
「はぁ…はぁ…こ、こんなのって…?」
「あはは。そんな顔しないでさ。最期はさ、笑ってよね。私だけのモノになるんだからさ!」
ナイフのコが告げると、同じ顔のコたちの躰が重なった。同じ痩躯が、もつれ合い、一瞬の停滞。
もつれた紐がほどける様に、一方が、すがりつくように床に倒れた。ごぼっ、と口から赤を吹き、床をぬらぬらとした、紅で染めてゆく。
その倒れた痩躯の手には、ナイフが握られていた。
「えっ…?」
「あはは、奇遇ね。ホント、よく似てるわ、私ら。 何が起こったかわからないって顔ね? そりゃ、突然、口から血を吹いて、体の自由が利かなくなったら、驚くよね? どう動ける? 無理でしょ? 結構、強いクスリだから。あぁ、心配しなくても大丈夫。動けなくなるだけだから。血を吹いたのは、ちょっと量が多かったから、粘膜がやられただけよ、きっと」
「一体…どういうこと…?」
「まだ分からない? 私らよく似てるんでしょ。あなた、私を殺したいって思ってるんでしょ? 私のことを好きで、好きでたまらなくて、愛しているから殺したいって」
「ちょっ、まさか…?」
「そうよ? だから、言ったじゃない。彼の告白は断ったって。私が好きな人、いや、私が愛してる人は他にいるもの。まさか、その相手から先に、こんな熱烈な告白されるとはねぇ? びっくりしすぎて、笑いをこらえるのに必死だったわ。私の気持ち、もうわかってるでしょ?」
淡々と話しながら、長髪のコが、ティーカップを優雅に口に運んだ。
「私も愛しているのよ。アンタが私を殺したいほど愛しているのと同じか、それ以上にね。だから、アンタのティーカップに、クスリを入れたの。身動きの取れないイモムシみたいなアンタを愛すためにね」
「ちょっ、こ、こんなのって…おかしくない? 何かのジョーダンよね…?」
「冗談でこんなことをすると思ってるの? 私は本気よ? 本気で愛してる。人を愛すってことは、逆に愛されることも覚悟しないとね? 一方的に押し付けてるだけじゃダメよ。相手の気持ちもしっかり受け入れないと。 良かったじゃない? 私ら、似ているだけじゃなくって、相思相愛だったんだから。今からたっぷり愛してあげる」
「イヤッ…やめて、一体…何する気!」
「何って…? これから私とあなたは、1つになるの。最初は痛いかもしれないけど、すぐに良くなるはずよ。そのためのクスリだからね。少しずつ味わってあげる」
長髪のコは、無邪気な微笑で、床のコからナイフを取り上げた。
「あぁ、そういえば、心理テストの6%の違いってのが、今わかった」
左手でナイフをクルクル回すと、彼女は言った。
「きっと、純愛と鬼畜の違いじゃないかしら」(終)
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