2007年01月26日 (金)
『成り代わり』
「あ~、もう、さっぱわかんない!」
頭を抱えて、ショートヘアのコがテーブルに突っ伏した。
「自業自得。日頃から勉強してないのがワルい」
向かい側のロングの子が左手で、ペンをクルクル回した。
「学生の本分は、勉強でしょ。勉強。テスト前ぐらいやりなよ」
「うわっ、優等生発言。
そりゃ、最近のアンタは成績良いけどさ……5本の指に入るってヤツ?
でも、若いうちは遊んで何ぼじゃない? 人生長いようで短いし」
少女が2人、ドリンクバー片手に、勉強中。
テーブルの上には、所狭しと、教科書に参考書、プリントやノートの海。
もちろん、デザートのケーキも並んでいる。
彼女達以外の他のテーブルも似たような感じで、店内はごった返していた。
「はぁ…もう疲れた。ちょっと休憩しない?」
「さっき、休憩したばっかでしょ」
「さっきのは、トイレ休憩。今度が本番」
「そんなだから、追試受けるのよ」
「アンタもちょっと前まで、追試常連だったクセに。
まぁ~、そう言わず、ちょっとくらいイイじゃない。
最近、流行ってるウワサ話とかあるんだけど」
「へぇ~、どんなウワサ?」
「なっ!? その眼は全然信用してないな」
「そりゃ、ウワサって、ほとんどがでっちあげのウソっぱちだし」
「いやいや、それがさ。今回のは一味違うってヤツ」
「ふーん、何が違うのよ?」
「おっ、食いついてきたな。よしよし、話して進ぜよう」
半目で、相変わらずペンをクルクル回すロングのコ。
対して、ショートのコが得意げに噂話を話し始めた。
「"成り代わり"って知ってる?」
「何それ? 将棋で、歩兵が金にでもなるってやつ?
あぁ、つまり、ショボい野郎が立身出世してめでたし、めでたしね」
「はいはい、ナイスボケありがとうッ!
そうじゃなくって、"自分が殺しにやってくる"の。
そして、本人と入れ代わって、何事もなく、生活するんだって」
「何、そのドッペルゲンガー。今時、流行らないって」
「ドッペルゲンガーじゃなくって、"成り代わり"。
ドッペルゲンガーって、見たら死ぬってやつでしょ。
だけど、"成り代わり"は、本人を殺して、入れ代わる。
本人と全く同じに振舞うから、周りは気づかない」
「ふーん、なるほど。
でも、ヘンじゃない? 周りが気づかないってのは」
「何でよ?」
「だって、周りが気づかないのに何でそれがウワサになるのよ。
周りが気づかなければ、ウワサに成りようがないじゃない?」
「ほぅ、イイぞ、ワトソン君。ナイスな推理だ」
「誰が、ワトソンよ?」
「ゴメン、ゴメン。ジョーダンだって。そんな顔しなさんなって」
ロングのコは、ムスッとして、横を向いた。
ショートのコは、ケーキをモグモグ食べながら、話を続けた。
「それがさ、"成り代わり"って言ってもね、
びみょ~にヘマをするらしいのよ。
本人より頭良かったり、運動できたり、性格良くてモテたりさ」
「何それ。真似るつもりで、ヘマして、本人よりスゴイって。
頭良いのか、馬鹿なんだかわからないね」
「そうそう。ホントよくわからん」
「でも、良いんじゃない?
そんくらいなら害なさそうだし。殺された被害者はご愁傷様だけど」
「なんて、セメント意見。友達減るよ?
まぁ~、周りから見りゃ、そうかもしれないなぁ~。
本人より、ずっと好感持たれるだろうし。
でも、イイことばかりじゃないんだよ、コレが」
「どんなオチがつくのよ?」
「ヘマの仕方が必ずしも、イイ方向だけじゃないってこと。
逆の場合もあるってヤツ」
「逆ねぇ…性格悪くなるの? アンタみたいに」
「そうそう、私よりアタマ悪くって…… いや、そうじゃなくって!」
「ノリツッコミは、もう流行らないと思うけど?」
「流行に弱いアンタに合わせたのよ」
ロングのコは、再びムスっとして、ペンをクルクル回した。
ショートのコは、ケラケラ笑いながら、ケーキを食べ終えた。
「でね、性格悪くなるぐらいならまだカワイイもんよ。
問題は、タガが外れやすくなって、普段しないこやっちゃうとか」
「なんか周りくどい言い方ね……。つまり単刀直入に言うと?」
「人殺し」
「直球すぎ…。もっと補足すると?」
「キレやすくなるっていうのかな。よくあるじゃん、ニュースとかでさ。
"あの人はマジメそうな人だった"
"こんなことするなんて思わなかった"ってヤツ」
「あ~、よくあるね、ワイドショーとかで」
「そうそう、アレ。 その犯人がね、"成り代わり"にあってるらしいのよ、それもかなり数がね。
何でも、犯人の知り合いの話だと"自分が殺しに来る"
って相談があったんだって。犯行のちょっと前ぐらいにさ。
そんなウワサが、今や都市伝説ってわけ。
自分の知らないところで、自分を見た話を聞くようになったらご用心」
「へぇー、そりゃスゴイね、都市伝説。あぁ、コワイ、コワイ」
「全然、怖そうじゃないなぁ……」
ショートのコは、不満そうにドリンクバーを口に含んだ。
ロングのコは、そっけなく、ノートにペンを走らせた。
「だって、そりゃ、現実味無いじゃない。リアルさが足りないってやつ?」
「どのヘンがよ?
そりゃ、噂話だから、信用ないかもしれないけどさ……」
「まぁ、はなっから、信じてないけどね。
百歩譲って、その"成り代わり"ってのがあったすると、
どうにも納得行かないことがあってね」
「どういうこと?」
「殺された本人はどこへ行ったの?
殺されたってことは死体があるはずでしょ。
どうやって処分したのかしらね」
「むぅ…たしかに言われてみれば……
うーん…バラバラにして、捨てたとかじゃない?」
「またスプラッタな。そんなことやってもすぐに見つかるわ。
よくテレビで見つかってるでしょ。公園とか、山とか、ロッカーとか。
埋めたとしても、野犬が、掘り起こす場合もあるだろうし、
殺人とかの証拠探しになるとケーサツは強いから絶対見つける」
「じゃあ、焼いたとか?」
「火葬場って何度で焼いてると思ってるのよ?
並の温度だと、骨は残るし、
肉と髪の焼けるニオイはスゴイから絶対ばれる」
「むぅ…じゃあさ、コンクリ抱かせて、ドボンってのは?」
「それはテレビの見すぎ。一時的には沈むけど、腐敗が進むと、
ガスが出てきて、死体は浮き上がってくるから漁師に見つかる」
「うぅー、これもダメか…他に何かないかな……」
「どうわかったでしょ?
誰にも知られずに、人を消すってことは、結構大変なことよ。
きっと、何らかの足がつくから」
「むぅ~、納得いかないけど、たしかに矛盾してる……
あぁ、もぅ、ウワサに踊らされて損した気分。
アタマ使ったら、おなか減った」
「って、今、ケーキ食べたばっかじゃない?」
「それはそれ。脳が糖分を欲してるのだ。
そういえば、アンタ、ケーキ食べないの?」
ショートのコが、モノ欲しそうに、ロングのコのケーキを見た。
「あぁ、注文したは良いけどさ、今、ダイエット中なの忘れてて。
何なら、食べる?」
「マジで? もちろんもらう」
ショートのコは、嬉しそうにケーキにかじりついた。
ロングのコは、やれやれ、とそれを見た。
「あ~、おいしいなぁ。やっぱ甘いものは別腹だわ。
でも、別に太ったようには見えないけど?」
「うん、ちょっと最近、肉ばっか食べ過ぎてね。体重計ヤバくって……」
「あはは、なるほど。私もその経験あるわ」
ショートのコは、肩を震わせて、けらけら笑った。
ロングのコは、恥ずかしそうに、ペンをクルクル回した。
「ふぅ~、ごちそうさまっと。私もベンキョーの続きやるかなぁ……
あれ? そういえば、アンタ。いつから左利きになったんだっけ?」
「んっ? そうじゃなかったっけ?」
ショートのコは、不思議そうに首をかしげた。
ロングのコは、右手でペンをクルクル回すと、ノートに走らせた。(終)
「あ~、もう、さっぱわかんない!」
頭を抱えて、ショートヘアのコがテーブルに突っ伏した。
「自業自得。日頃から勉強してないのがワルい」
向かい側のロングの子が左手で、ペンをクルクル回した。
「学生の本分は、勉強でしょ。勉強。テスト前ぐらいやりなよ」
「うわっ、優等生発言。
そりゃ、最近のアンタは成績良いけどさ……5本の指に入るってヤツ?
でも、若いうちは遊んで何ぼじゃない? 人生長いようで短いし」
少女が2人、ドリンクバー片手に、勉強中。
テーブルの上には、所狭しと、教科書に参考書、プリントやノートの海。
もちろん、デザートのケーキも並んでいる。
彼女達以外の他のテーブルも似たような感じで、店内はごった返していた。
「はぁ…もう疲れた。ちょっと休憩しない?」
「さっき、休憩したばっかでしょ」
「さっきのは、トイレ休憩。今度が本番」
「そんなだから、追試受けるのよ」
「アンタもちょっと前まで、追試常連だったクセに。
まぁ~、そう言わず、ちょっとくらいイイじゃない。
最近、流行ってるウワサ話とかあるんだけど」
「へぇ~、どんなウワサ?」
「なっ!? その眼は全然信用してないな」
「そりゃ、ウワサって、ほとんどがでっちあげのウソっぱちだし」
「いやいや、それがさ。今回のは一味違うってヤツ」
「ふーん、何が違うのよ?」
「おっ、食いついてきたな。よしよし、話して進ぜよう」
半目で、相変わらずペンをクルクル回すロングのコ。
対して、ショートのコが得意げに噂話を話し始めた。
「"成り代わり"って知ってる?」
「何それ? 将棋で、歩兵が金にでもなるってやつ?
あぁ、つまり、ショボい野郎が立身出世してめでたし、めでたしね」
「はいはい、ナイスボケありがとうッ!
そうじゃなくって、"自分が殺しにやってくる"の。
そして、本人と入れ代わって、何事もなく、生活するんだって」
「何、そのドッペルゲンガー。今時、流行らないって」
「ドッペルゲンガーじゃなくって、"成り代わり"。
ドッペルゲンガーって、見たら死ぬってやつでしょ。
だけど、"成り代わり"は、本人を殺して、入れ代わる。
本人と全く同じに振舞うから、周りは気づかない」
「ふーん、なるほど。
でも、ヘンじゃない? 周りが気づかないってのは」
「何でよ?」
「だって、周りが気づかないのに何でそれがウワサになるのよ。
周りが気づかなければ、ウワサに成りようがないじゃない?」
「ほぅ、イイぞ、ワトソン君。ナイスな推理だ」
「誰が、ワトソンよ?」
「ゴメン、ゴメン。ジョーダンだって。そんな顔しなさんなって」
ロングのコは、ムスッとして、横を向いた。
ショートのコは、ケーキをモグモグ食べながら、話を続けた。
「それがさ、"成り代わり"って言ってもね、
びみょ~にヘマをするらしいのよ。
本人より頭良かったり、運動できたり、性格良くてモテたりさ」
「何それ。真似るつもりで、ヘマして、本人よりスゴイって。
頭良いのか、馬鹿なんだかわからないね」
「そうそう。ホントよくわからん」
「でも、良いんじゃない?
そんくらいなら害なさそうだし。殺された被害者はご愁傷様だけど」
「なんて、セメント意見。友達減るよ?
まぁ~、周りから見りゃ、そうかもしれないなぁ~。
本人より、ずっと好感持たれるだろうし。
でも、イイことばかりじゃないんだよ、コレが」
「どんなオチがつくのよ?」
「ヘマの仕方が必ずしも、イイ方向だけじゃないってこと。
逆の場合もあるってヤツ」
「逆ねぇ…性格悪くなるの? アンタみたいに」
「そうそう、私よりアタマ悪くって…… いや、そうじゃなくって!」
「ノリツッコミは、もう流行らないと思うけど?」
「流行に弱いアンタに合わせたのよ」
ロングのコは、再びムスっとして、ペンをクルクル回した。
ショートのコは、ケラケラ笑いながら、ケーキを食べ終えた。
「でね、性格悪くなるぐらいならまだカワイイもんよ。
問題は、タガが外れやすくなって、普段しないこやっちゃうとか」
「なんか周りくどい言い方ね……。つまり単刀直入に言うと?」
「人殺し」
「直球すぎ…。もっと補足すると?」
「キレやすくなるっていうのかな。よくあるじゃん、ニュースとかでさ。
"あの人はマジメそうな人だった"
"こんなことするなんて思わなかった"ってヤツ」
「あ~、よくあるね、ワイドショーとかで」
「そうそう、アレ。 その犯人がね、"成り代わり"にあってるらしいのよ、それもかなり数がね。
何でも、犯人の知り合いの話だと"自分が殺しに来る"
って相談があったんだって。犯行のちょっと前ぐらいにさ。
そんなウワサが、今や都市伝説ってわけ。
自分の知らないところで、自分を見た話を聞くようになったらご用心」
「へぇー、そりゃスゴイね、都市伝説。あぁ、コワイ、コワイ」
「全然、怖そうじゃないなぁ……」
ショートのコは、不満そうにドリンクバーを口に含んだ。
ロングのコは、そっけなく、ノートにペンを走らせた。
「だって、そりゃ、現実味無いじゃない。リアルさが足りないってやつ?」
「どのヘンがよ?
そりゃ、噂話だから、信用ないかもしれないけどさ……」
「まぁ、はなっから、信じてないけどね。
百歩譲って、その"成り代わり"ってのがあったすると、
どうにも納得行かないことがあってね」
「どういうこと?」
「殺された本人はどこへ行ったの?
殺されたってことは死体があるはずでしょ。
どうやって処分したのかしらね」
「むぅ…たしかに言われてみれば……
うーん…バラバラにして、捨てたとかじゃない?」
「またスプラッタな。そんなことやってもすぐに見つかるわ。
よくテレビで見つかってるでしょ。公園とか、山とか、ロッカーとか。
埋めたとしても、野犬が、掘り起こす場合もあるだろうし、
殺人とかの証拠探しになるとケーサツは強いから絶対見つける」
「じゃあ、焼いたとか?」
「火葬場って何度で焼いてると思ってるのよ?
並の温度だと、骨は残るし、
肉と髪の焼けるニオイはスゴイから絶対ばれる」
「むぅ…じゃあさ、コンクリ抱かせて、ドボンってのは?」
「それはテレビの見すぎ。一時的には沈むけど、腐敗が進むと、
ガスが出てきて、死体は浮き上がってくるから漁師に見つかる」
「うぅー、これもダメか…他に何かないかな……」
「どうわかったでしょ?
誰にも知られずに、人を消すってことは、結構大変なことよ。
きっと、何らかの足がつくから」
「むぅ~、納得いかないけど、たしかに矛盾してる……
あぁ、もぅ、ウワサに踊らされて損した気分。
アタマ使ったら、おなか減った」
「って、今、ケーキ食べたばっかじゃない?」
「それはそれ。脳が糖分を欲してるのだ。
そういえば、アンタ、ケーキ食べないの?」
ショートのコが、モノ欲しそうに、ロングのコのケーキを見た。
「あぁ、注文したは良いけどさ、今、ダイエット中なの忘れてて。
何なら、食べる?」
「マジで? もちろんもらう」
ショートのコは、嬉しそうにケーキにかじりついた。
ロングのコは、やれやれ、とそれを見た。
「あ~、おいしいなぁ。やっぱ甘いものは別腹だわ。
でも、別に太ったようには見えないけど?」
「うん、ちょっと最近、肉ばっか食べ過ぎてね。体重計ヤバくって……」
「あはは、なるほど。私もその経験あるわ」
ショートのコは、肩を震わせて、けらけら笑った。
ロングのコは、恥ずかしそうに、ペンをクルクル回した。
「ふぅ~、ごちそうさまっと。私もベンキョーの続きやるかなぁ……
あれ? そういえば、アンタ。いつから左利きになったんだっけ?」
「んっ? そうじゃなかったっけ?」
ショートのコは、不思議そうに首をかしげた。
ロングのコは、右手でペンをクルクル回すと、ノートに走らせた。(終)
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